マロン:あれから1年がすぎ

さびたストーブ

AVやアダルト映画などで知られる女優・林由美香が亡くなって、1年がすぎた。昨年の6月28日、自宅で亡くなっているのを発見された。死亡推定時刻は26日22時。

一部報道では、自殺説や薬と酒による窒息死説も出たが、それらはすべて誤報である。正しくは、その後の警察発表にあるように、事件性・事故性のない自然死。いまだに自殺説や薬物説を信じ込んでいる人が多いことに、驚く。やはり第一報のインパクトは強い。第一報で自殺だの薬だのという強烈な字面が刷り込まれれば、その後の印象をも大きく左右してしまう。あとから小さな訂正記事を載せても、だれも読まない。

私は、林由美香に、あるピンク映画の撮影現場で会ったことがある。友人がその作品の監督をしていて、企画段階から死力をつくしていた。脚本も、理由あってクレジットは異なるが、実際には彼自身が書いていた。彼は金がないので、鳥皮のスープや、魚の頭などの余り物をもらってきて、ふらふらになりながらその作品にかけていた。いつかは本編を撮りたいという願望だけが、当時の彼の支えだった。

月に何度も、深夜まで、結論の出ない相談事や悩みを聞いていた。そんな経緯と、当時私が別名でしていた仕事の関係もあって、外ロケの現場に赴く機会があったのだ。

そのとき、林由美香もそこにいた。すでにAVなどで有名な女優だったので、目についた。

きれいな話ではないが、私は途中、どうしてもトイレに行きたくなった。それで、トイレの場所を探してウロウロしていると、ワゴン車に乗った休憩中の林由美香が、声をかけてくれた。
「なにか探してるの?」
「…トイレ」

林由美香は、初対面のどこの馬の骨ともつかぬ私に、ワゴン車の中から一生懸命身ぶり手ぶりでトイレの場所を説明してくれた。

なんで彼女がトイレの場所を正確に把握していたのかは知らないが、おかげで私は助かった。

結局、林由美香とかわした会話は、人生の中で、ただそれだけ。トイレの場所の説明だけだ。

しかし、そんな刹那のふれあいが、その人の印象を生涯にわたって決定づけるときもある。

1年前に自然死でこの世を去った1人の女優がいた。トイレの場所の説明だけで、一生心に刻まれるほどのやさしい印象を残してくれた。競い合うことしか知らない人も多い世界の片隅で、そのやさしさは宝石のように輝いていた。

きれいな話ではなくて心苦しいが、外でトイレを探すたび、あのときの会話を思い出す。

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