マロン:梨元勝そしてキャサリン・グラハム

梨元さんが某放送局の番組を降板したとき、すぐさま思い出したことがある。今日はそのことを書きたい。

昔の話になるが、いまは亡きキャサリン・グラハムさんの生の声を聞けたことは、編集者になってよかったと思うことのひとつだ。曙は最近25キロやせたそうだが、あのころの私は現在より30キロやせていた。

彼女は、ウォーターゲート事件当時のワシントンポスト社主であった。
ウォーターゲート事件とは1972年、ワシントンDCポトマック河畔のウォーターゲート・ホテルの民主党全国委員会に侵入し、盗聴器を仕掛けようとしたグループが警察に捕まったことに端を発する、アメリカ政治史上に残る大事件である。ニクソン政権はあらゆる手段で事実隠蔽をはかったが、ワシントンポスト紙の記事で政権の関与が発覚、大統領辞任にいたった。
グラハムさんはこのとき、政権からの脅迫に屈せず、言論の自由を守り抜いたことで知られる。

直接、グラハムさん本人からその記事を掲載するかどうか、ワシントンポストの内部でどのような葛藤があったのか聞くことができた。アメリカという国自体を揺るがしかねない(それ以前に自社の存亡を左右しかねない)難しい局面。さぞやカンカンガクガクの大議論が繰り広げられたに違いあるまい、そう思い込んでいた。

ところがグラハムさんの答えは、あまりに呆気ないものだった。社長室の中で掲載を決めるディシジョンメイクをするのに、なんと「1分もかからなかった」のだという。

それはつまり、すでにハラをくくっていたということを意味する。ワシントンポストは、そういう「生き方」をしているメディアだったのである。

ハラをくくった人間ほど強いものはない。街場の喧嘩でもそうだが、多少腕っぷしの強い輩よりも、腕におぼえはなくてもハラの座った人間のほうが圧倒的に強い。

梨元さんも、ジャニーズのことは今後一切扱わないとした番組を降板するのに、やはり時間を要さなかった。

ハラをくくる、というのは言葉にすると簡単だが、実際には難しい。その場しのぎのポーズではなく、生きざまそのものにかかわってくることだから、実際にそのような生き方をしていなければ、くくろうと思ってもくくれないものなのである。

私なら、キャバクラで女の子を指名するディシジョンメイクにも1分以上かかってしまうに違いない。

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