志和:梨元さん、領収書!

梨元さんの長い長いキャリアのうち、最後のほんの5年間を裏チャンでご一緒させていただいただけで、私などが梨元さんについて何かを語るなど、おこがましいにも程がある。だから、ここに書くことは、もちろんそれをもって「梨元勝」という人を語るつもりでは毛頭ないということと、長い長い梨元さんのキャリアのうち、ほんの一瞬の、そのまたほんの一瞬の出来事だということを、お断りしておく。

私の妻はニュースチェックの打ち合わせで、梨元さんの最後の2年間、月〜土まで毎朝電話連絡をとっていた。妻がいいと思って選んだニュースが梨元さんの選ぶニュースと違っていると…

叱られるのである、怒鳴られるのである。

「バカヤロー!」「俺たちは体張ってこの仕事やってんだ!」「いい加減にしろ!」

さすがに妻も、自分の親以外でこんなに怒鳴られた人はいない、と言っていた。しかし幸い妻はタフというか天然なのか、最初こそ戸惑いはあったが、やがて「梨元さんはものすごく激しく私のことを怒鳴るけど、愛情があるの。仕事を愛しているのが伝わってくる。だから私は、梨元さんなら、怒鳴られてもなんとも思わなくなったの」などと言うようになった。

梨元さんは、怒鳴りっぱなしではなかった。

激しく怒鳴って、数日経つと決まって私に電話をかけてきて、「志和ちゃん、こないだ奥さん怒鳴りすぎた。おいしい寿司2人で食べてきて。特上ね、特上」と言うのだ。

そういうときの梨元さんは、失礼ながら、ものすごくチャーミングだ。

ああ、梨元さんは人が本当に大好きなんだな、って感じた。

そして私と妻は、そう言われるたび本当に遠慮なく、高い寿司屋に行って、まったく遠慮することなく、いちばん高い寿司を食べてきた。そして領収書をあとで梨元さんに渡す。梨元さんは「おお、おお! うまかった? はいはいはい…」とニッコリしながら、清算してくれるのだ。

怒鳴られれば怒鳴られるほど、うまい寿司が食える。

人生で、これほど寿司をごちそうになった人は他にいない。

梨元さんのお陰で、安い寿司が食えなくなった。

しかし、失敗したことがひとつある。

実はまだ、清算してもらっていない領収書が一枚あるのだ。

清算してもらう前に、梨元さんは天国へ旅立ってしまった。

その領収書はいま、私たち夫婦の宝物になった。

お金では買えない宝物になった。

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